一命をとりとめた隆さんは

わたしと出会ってからの記憶を すべて失っていました。


お医者さまのゆるしが出たので
わたしは隆さんをお家につれて
かえりました。
前のようにここで暮らせば
わたしのことも思い出して
くれるかもしれません。

 わたしはよく眠る隆さんのとなりに
もぐりこんで、なつかしい
暖かさにうっとりとまどろみました。
こうして一緒のふとんで
眠れるのは、あの事故のあと
はじめてです。
なんて、心地がいいんでしょう。


…気がつくと
となりで隆さんがまっかになって
慌てています。

……ああ。
また今朝も、わたしのことを
忘れちゃったんだ。
今朝は隆さんが好きだったたまご焼き、
それからおみそ汁。
口にあうかな。

高校生に『戻った』隆さん、
味覚まで若くなってたりしてね。
お医者さまの言いつけどおり
塩分はひかえめ。
自分ではわからないみたいだけど
隆さん、まだ手先が完全に
自由にならないみたい。
ぽろぽろごはんをこぼしてる。

わたしが「あーんして」というと
こまったように
はずかしそうに
隆さんは口をあける。

ふふ。
小さな男の子みたい。
 もどる。 まえ つぎ。

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